保険料のはなし(2)

投稿者:
ライフネット生命 スタッフ

こんにちは,数理部の岸本です。

性懲りもなく,前回の続きを書いてみたいと思います。
(興味を持ってくれる人がいることを願いつつ)

保険料(純保険料)は,ある集団に対して支払われる保険金の総額と,その集団の人たちが支払う保険料の総額が一致するように計算されます。

前回(8/4の社員ブログ),その計算例として,保険金10万円,2年契約の場合で,1年目の死亡率が5%,2年目10%だとすると,1年目に必要な保険料が 5,000円,2年目は1万円になりますが,2年間同じ保険料を支払う場合,少し安くなって,7,436円になる,という話をしました。

さて,この場合,1年目に必要なのは5,000円だけなので,支払った保険料のうち,2,436円が余ってしまうことになります。
もちろん,2年目には逆に不足が生じるので,この余ったお金は,保険会社が自由に使えるわけではなく,2年目の保険金支払に備えて,残しておく必要があります。

このように,将来の支払に備えて積み立てておくべき金額のことを,『保険料積立金』といいます。(*1)

保険料積立金という名前だからと言って,保険料全額が積み立てられているわけではなく,その一部(『貯蓄保険料』といいます)だけが積み立てられています。

保険料を払う側(保険契約者)から見れば,1年目にはまだ必要でない分2,436円を,いわば「前払い」したことになります。
保険会社は,この保険料積立金を使って運用することができますので,あらかじめ決めておいた利率(『予定利率』といいます)でこの「前払い」分から割り引きして保険料を決めています。

利率をからめた計算をするには,「現価」というものを考えます。(*2)

突然ですが,いま100万円の借金があったとしましょう。
今すぐ返済しなければならないのと,1年後に返済すればいいのとでは,違いがあります。
つまり,現在の100万円と1年後の100万円とでは,同じ100万円でも「価値」が違うと考えることができます。
もし,上手く運用して1年後に10%増やせるのなら,その人にとっては,現在の100万円は,1年後の 100万円×1.1 = 110万円 と同じ「価値」ということになります。
逆に,1年後の100万円は,現在の 100万円÷1.1 = 91万円に相当することになります。
これが1年後の100万円の「現価」です。

それでは,予定利率を折り込んで保険料を計算してみましょう。
予定利率を10%(例ですので気前よく?)とします。

まず,保険金の支払額の現価を計算してみます。
前回の計算から,契約者が 1,000人いた場合,1年目の保険金は500万円,2年目は950万円でした。
前回はこれをそのまま合計しましたが,今回は現価を考えてから合計しなければなりません。

1年目の保険金は,契約から1年後に支払われるとして,その現価は,
500万円÷1.1 = 455万円
となります。2年目は,
950万円÷1.1÷1.1 = 785万円
です。2年後に支払われる金額としているので,1.1で2回割っています。
以上から,保険金支払の現価は,
455万円+785万円 = 1,240万円
です。

一方,保険料の現価ですが,いま保険料の額がわからないので,
とりあえず P と書いておきます。

1年目の保険料は,全員(1,000人)が支払いますので,総額は
P × 1,000 円
です。払い込みは,契約と同時と考えれば,現価もこの額になります。
2年目は,950人が支払うことになりますので,合計
P × 950 円
です。これは2年目の始め,すなわち契約から1年後に払い込むので,
現価に換算すると,
P × 950 ÷ 1.1 = P × 864 円
になります。したがって,合計して,保険料の現価は,
P × 1,000 円 + P × 864 円 = P × 1,864 円
です。

これが,先に計算した保険金の現価 1,240万円と一致するように保険料 P を決めれば,
P × 1,864 円 = 1,240万円
なので,
P = 1,240万円 ÷ 1,864 = 6,652円
になります。

1年目と2年目の死亡率に大きく差がある場合は,上の例のように保険料積立金の額も大きくなり,
結果的に予定利率による割引効果も大きくなります。
(上の計算例は,死亡率も予定利率も極端にしてありますので,割引の効果も大きくなっています。)

さらに契約が長期になれば,利率による割引の効果はその分大きくなります。


(*1)『責任準備金』ということもあります。
ただし,会計上は区別されていて,保険料積立金は責任準備金の一部です。
(*2) 慣例として,保険数理では「現価」と呼んでいますが,
一般には「現在価値」と呼ばれることが多いようです。

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