こんにちは。数理部の岸本です。
生命保険において保険料を決めるために使われる死亡率は、
大数の法則に基づいています。
大数の法則は、
「ある独立試行に関して、試行回数を増やせば増やすほど、
理論的確率に限りなく近づく」という法則です。
たとえば、コインを投げたとき表が出る割合がほぼ半分であろうことは、
だれでも経験的に知っていることですが、
一方で、数回程度なら表と裏のどちらかに偏ることも珍しくはありません。
5回連続で表が出たからといって、
「大数の法則が間違っている!」ということにはならないわけです。
大数の法則は無数に繰り返したときにあらわれる傾向を示している法則なので、
回数の少ない時には、理論的確率から離れた結果が出ることもあります。
この法則は、回数を増やしたときに有効になるものなのです。
と言っても、たいていの場合あらかじめ理論的確率がわかっていることは珍しいでしょう。
逆に、もし確率の知りたい事象が大数の法則に従っているのであれば、
理論的確率を求めるのに大数の法則を使うことができます。
すなわち、十分な数のデータさえ採ることができれば、
そのうち問題の事象が発生している割合を計算することで理論的確率が推計できるわけです。
この推計値がどれくらいの精度で“真の”理論的確率に近いかは、
どれくらい十分にデータが採れたかに依存します。
生命保険で使われる死亡率も同じように、
十分なデータをもとに大数の法則を前提として推計されています。
また、特定の一人が1年以内に亡くなるかどうかは分かりませんが、
十分な人数がいて、そのうち何人が亡くなるか?ということなら、
大数の法則によりある程度予想ができます。
しかしながら、大数の法則は「無数に繰り返したとき」
「無数にデータ(サンプル)が採れたとき」というような極限での法則なので、
限られた人数では(それがたとえ、数百万、数千万人であっても)
理論的確率からの“ぶれ”が生じる可能性は避けられません。
「このうちピッタリ○○人が亡くなる」などと正確に“予言”することはできないのです。
どれくらいのブレが起こりうるかは、大数の法則だけでは推計できないのですが、
確率統計論に基づく計算から、推計することは可能です。
それによれば、人数が100倍に増えれば、理論的確率からの“ぶれ”は10分の1になることが分かっています。
つまり人数の増加に伴って、“ぶれ”は減少していくことが予測できるのです。
(人数が無限に増えれば、“ぶれ”はゼロに近づくということが、大数の法則の根拠となっています。)
大数の法則とこの法則によって、生命保険という制度は成り立っているのです。