エンベディッド・バリュー(2)

投稿者:
ライフネット生命 スタッフ

こんにちは。数理部の岸本です。
前回のブログで「エンベディッド・バリュー」について書きました。
今回はその続きです。

エンベディッド・バリュー(以下「EV」)は、生命保険会社の保有する資産と保険契約の「価値」の合計を表すもので、そのうちの保険契約の価値(保有契約の将来利益現価)は将来生じると見込まれる利益(または損失)を利率で割り引いて「現在価値」にしたものです。


こうやって計算されたEVは時間の経過によっていろいろな要因で変動します。
前年度末のEVからの変動を分析した結果は開示資料に記載されていますが、変動の要因としては、以下のようなものがあります。(株主への配当や増資などによる変動を除きます)

(1) 前年度の前提通りに経過したとして生じる増減

将来利益現価は、将来想定される利益を利率で割り引いて計算したものです。
時間が経過すると、割り引かれた分が時間経過に応じて戻されることになります。
利息が付くといってもいいかと思います。

また、前年度末時点で期待される運用利回りの分の資産の増加も含まれます。

(2) 前年度の前提と、今年度の実績との差

前年度の将来利益現価には、今年度も含めた将来に生じるであろう利益が織り込まれています。
その計算には、前年度末時点までの実績を踏まえて設定した前提が用いられます。
前提には、保有契約の将来の解約・失効率、保険金等の支払発生率、現在価値を計算するための利率や運用利回りなどがあります。

前提通りに時間が経過すれば(1)の分、EVが変動するだけですが、もちろん、全く前提通りになるとは限りません。むしろ、完全に前提通りになることはなく、(1)で想定するEVの増減と、実際の増減とが異なっているのが普通です。

なお、保険事業の活動に関する部分と経済環境の変化(金利の変化など)による部分とは、区別して開示されます。
たとえば、保有契約の将来の解約・失効率、保険金等の支払発生率などに関する差は前者に、現在価値を計算するための利率や運用利回りの変化による差は後者に含まれます。

(3) 前提条件の変更による影響

EVは、計算する時点までの実績をもとに設定した前提から計算されます。
たとえば、ある年の保険金の支払いが前提を大きく上回り、そのような状況が一時的なものではなく今後も続くだろうと想定されるならば、前提を見直す必要があります。

前提を見直せば、EVの計算結果もそれに応じて変化します。

4) 新契約価値

EVは、計算時点の保有契約から生じる将来の利益を見込んで計算します。
つまり、将来の利益といっても、将来獲得する新契約の分に関する利益まで織り込むわけではありません。

したがって、ある年に獲得した新契約の将来利益現価は、そのままその年のEVの増減につながります。
その年に獲得した新契約によるEVの増減額を「新契約価値」といいます。

保険契約は、保障が長期にわたるものが多く、獲得(契約成立)した年は、獲得するために費やしたコストが大きいため収支がマイナスになり、その後プラスに転じるといったこともよくあります。(もちろん商品にもよります)そのため、獲得した年の収支だけで新契約の評価をすることができません。

新契約価値は、将来生じるであろう収支も織り込んで計算しているため、単にEVの分析項目の一つというだけでなく、新契約の評価のための指標にもなり得ます。

変動要因については、開示されている資料の中にも説明がありますが、大きく分けると上記の様になるかと思います。

EVは生命保険会社特有の指標であるため、わかりにくい点も多いかと思いますが、何かの参考になれば幸いです。


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